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浦和地方裁判所 昭和38年(モ)554号 判決

債権者 有山広

右訴訟代理人弁護士 細田英明

同 片山秀頼

債務者 関根正富

右訴訟代理人弁護士 新井藤作

主文

債権者と債務者間の、当庁昭和三八年(ヨ)第二三一号工事禁止仮処分事件について、当裁判所が同年九月一二日になした仮処分決定はこれを取消す。

債権者の本件仮処分の申請を却下する。

訴訟費用は債権者の負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

一、昭和二四年頃来、本件土地を債権者において賃借することを賃貸人たる債権者において承認してきたことは当事者間に争なく、このことと債権者債務者各本人尋問の結果によれば、本件土地はもと、債権者において昭和一九年一二月中訴外藤原英雄に賃貸し、昭和二四年頃債務者において地上にあつた訴外人所有の約三十坪の木造建物を買受けるとともに、賃借権を譲受け、昭和二六年頃この譲受につき債権者の承諾を得て今日に及んだものであることが認められ右賃貸借が非堅固建物の所有を目的とすることの明示の約束があつたことを認めるべき証拠はないが、堅固の建物の所有を目的とするものであることの主張立証はないから借地法第三条により非堅固建物の所有を目的とするものといわなければならない。

二、しかるところ、債務者が昭和三八年八月下旬債権者主張のとおり本件土地にブロツク建物一棟を建築し、さらに同年九月七日から貯蔵庫の建築工事に着手したことは当事者間に争いがないので、右の所為が本件土地の使用目的に反するものとして契約解除が許されるかどうかについて次に判断する。

債権者は右ブロツク建物は堅固の建物であるというのであるが右ブロツク建物は僅か八坪の建物であり、その構造耐久性において借地法第二条に例示する堅固の建物に匹敵するかどうか明らかでないばかりでなく、当事者間に争いのない本件土地上の三十坪の平家建工場のいわば附属の建物として建設せられたものであることは弁論の全趣旨に徴し明かであり、かような建物がたまたま堅固の建物と目されるものであつたからといつて直ちに本件土地使用の目的に反するものとすることはできない。

そればかりではなく、≪証拠省略≫を綜合すれば、債権者は昭和三八年六月頃債務者より本件ブロツク建物の建築について了解を求められながら、同年九月七日に至るまで、これが建築について異議を述べなかつたことが認められ、(この認定を左右することのできる証拠はない。)この建築については黙示の了解があつたものということもできる。

したがつて本件ブロツク建物の建築をもつて土地使用目的に反するものとして契約を解除することはできない。

次に貯蔵庫の建造について考えるに、本件貯蔵庫は、債務者本人尋問の結果により、巾約二米、長さ約六米深さ約一、六米の地下槽を設置し、重さ九瓩長さ三米程のガソリンタンクを入れ、その周囲を石、土、コンクリートで固めて覆うものであることが認められ、建物ではなく工作物というべきである。しかしてこれを原状に回復することは必ずしも容易ではないといえるが、債務者が昭和二八年頃来、本件土地にガソリンスタンドを設置し、ガソリン販売業を営んできたことは当事者間に争いなく、債権者はこの営業のために本件土地を使用することを許容していたものと認むべきであるところ、債務者本人尋問の結果及び成立に争いのない乙第四、第五号証によれば、ガソリン給油所は消防法の改正等により防火上公共の安全を守るため、危険物施設として、その設備の完備を要請されるに至り、埼玉県消防課よりも二度に亘り、その設備を要求されやむを得ない措置として債権者にもこれが承諾を求め拒否の応答がなかつたので築造に着手したものであることが認められ(この認定に反する債権者本人尋問の結果は措信しない。)右債務者の所為をもつて本件土地使用目的に反し賃貸借契約上著しく信義則に反するものとはいえない。しかしてこのことは賃貸借関係成立の当初の事情及び期間満了の直前であるとの債権者主張の事情を考慮するも判断を左右するものではない。

したがつて貯蔵庫設置に着手したからといつて契約解除することは許されないというべきである。

三、しからば債権者主張の契約解除の意思表示は解除の効果を有しないものというべきであるから、これが有効を前提として建物収去土地明渡を請求する被保全権利についてその疎明なきに帰するので、債権者の申請を入れてなした本件仮処分決定はこれを取消し、本件仮処分申請はこれを却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言について同法一九六条第一項をそれぞれ適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 綿引末男)

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